上極限と下極限
ルベーグ積分の勉強をしてたら上極限と下極限の理解が浅くてFatouの補題とかで出てくるたびに気が重くなったので一回ちゃんとまとめようと思った時の覚書です。
ということで数列の上極限・下極限の定義、同値な言い換え、上極限集合・下極限集合等についてみていきましょう。
数列の上極限・下極限の定義
数列は一般には収束するとは限りません。そんな時に数列の振る舞いを上から評価したい下から評価したいという欲望を満たしてくれるのがこの上極限・下極限です。
注)以下では「殆ど全てのについて〜〜を満たす」を「有限個のnを除いた任意ののについて〜を満たす」の意味で使います。これは「ある自然数Nが存在してNより大きい任意のnについてが〜〜を満たす」と同値であることがすぐに確かめられると思います。「殆ど全て」の方が直観が掴みやすいと思うのでこちらの表記を使うことが多くなります。
まず極限の定義を確認しておきましょう。ε-N論法による定義は上の注を踏まえると以下のようにかけます。
定義(極限)
が以下を満たす時、 の極限はaであるといい、 と書く。
任意のに対して以下が成り立つ。
(i)殆ど全てのnに対し
(ii)殆ど全てのnに対し
この定義の内、(i)を「殆ど全て」でなく「無限個の」に緩めてあげたのが上極限で、(ii)を同様に緩めてあげたのが下極限です。
定義(上極限)
が以下を満たす時、 の上極限はaであるといい、 と書く。
任意のに対して以下が成り立つ。
(i)無限個のnに対し
(ii)殆ど全てのnに対し
ただし、が上に非有界である時、これをとする。
また、なるは有限個であるとき、これをとする。
定義(下極限)
が以下を満たす時、 の下極限はaであるといい、と書く。
任意のに対して以下が成り立つ。
(i)殆ど全てのnに対し
(ii)無限個のnに対し
ただし、が下に非有界である時、これをとする。
また、なるは有限個であるとき、これをとする。
また、上極限と下極限は存在するなら一意である。これは定義よりすぐにわかる上に定義のいい確認となるので各自証明を試みていただきたい。
絵で描くと下のような条件が上極限・下極限の定義になります。
この定義は極限の条件を緩めたものだということが分かりやすいと思います。また、上極限と下極限が一致することとその数列が同値であることも直ちにわかります。上極限と下極限が一致するとき、上の絵における上極限の③:有限個と下極限の③:有限個が同時に成立しますが、これはまさに収束列の定義そのものだからです。
次の節で上極限と下極限が存在することが示されます。極限をただ緩めただけでなく、必ず一意に存在し、しかも収束を特徴付けてくれまでするとのことなのでかなり筋のいい概念ですね。
ただ、この定義では少し実際に計算して求めるのは難しそうです。次の節では上に書いた主張(存在性)を示します。その証明の過程で上の定義の同値な言い換え(計算しやすいバージョンの定義)が分かることになります。
上極限・下極限の同値な言い換え
定理1
任意の数列については一意に存在する。
証明
上極限についてのみ示す。
が上に非有界の時は であり成立。
が上に 有界、すなわち、ある実数Mが存在してが成立する場合を考える。
数列を以下のように定める。
この時、は単調減少。
が下に有界であることとが有限値であることは同値であるので、下に有界である場合のみ考える。この時、は下に有界かつ単調減少よりに収束する。これをとすると、が成立することを以下で示す。
を任意にとる。
はに収束するので、なるnは有限個。よってこれを満たすの内最大のnが取れ、番号がこれよりも大きい任意のはを満たす。よってこれは殆ど全てのnで成り立つ。(上極限の定義(ii))
はに収束するので、殆ど全てのnについてが成立。よって無限個のnについてが成立。(上極限の定義(i))
以上より上極限の存在が分かった。上極限の一意性は上で議論したとおりであり、証明が完結した。
以上の証明より、は、として一意に存在することがわかった。(はもちろん一意であるのでこれがの別定義であると言える。)
同様にしては、として一意に存在することが分かる。
このような同値な言い換えを施すと実際に数列が与えられた時の、上極限・下極限の計算やイメージがしやすいのではないだろうか。例えば、などの数列の上極限と下極限を実際に計算してみるとイメージがつくかと思います。
また、上極限と下極限には集積点を使った同値な言い換えも存在します。下記のサイトが参考になるので、興味のある方は参考にしてください。
上極限集合・下極限集合と上極限・下極限の関係
今まで数列の上極限と下極限の議論をしてきましたが、集合列についても似た概念の上極限集合と下極限集合があります。名前も定義も似ているのに対応がイマイチ掴めないなあと頭を悩ませていたんですが、最近対応が掴めたので記していこうと思います。
定義(上極限集合)
集合列の上極限集合とはで定義される集合である。
定義より と無限個のnについては同値である。
定義(下極限集合)
集合列の下極限集合とはで定義される集合である。
定義よりとほとんど全てのnについては同値である。
上の定義より以下の包含関係がわかる。
また、単調に増加する集合列、単調に減少する集合列においては無限個のnについてであることとほとんどすべてのnについてであることは同値であるので、
下記のサイトは上極限集合、下極限集合の定義を非常に丁寧に説明してくれています。上の拙い説明ではよく分からなかった方はまずこのサイトで定義を確認するといいかと思います。
では数列の上極限・下極限と上極限集合・下極限集合の対応を見ていきましょう。
結論から言うと、数列を下から評価するとき・集合列を内側から評価するときの基準として、と、と、と、とが対応しています。
まず、与えられた数列を下から評価したいという気持ちを持った時にが基準としてどのような意味を持っているか考えてみましょう。
それぞれの定義より以下の関係が成り立ちます。
⇔ 全てのnについて*1
⇔ ほとんどすべてのnについて
⇔ 無限個のnについて
⇔ 有限個のnについて
⇔ 全てのnについて が成立しない
これらは定義から示せます。
つぎに、与えられた集合列を内側から評価したいという気持ちを持った時にが基準としてどのような意味を持っているか考えてみましょう。
それぞれの定義より以下の関係が成り立ちます。
⇔ 全てのnについて
⇔ ほとんど全てのnについて
⇔ 無限個のnについて
⇔ 有限個のnについて
⇔ 全てのnについてが成立しない
以上の対応を絵でまとめると以下のようになります。
ここでは、「数列を下から評価する際の基準」と「集合列を内側から評価する際の基準」を対応づけましたが、「数列を上から評価する際の基準」と「集合列を外側から評価する際の基準」を対応づけて議論することもできます。
また、この対応は単なるアナロジーではなく、実数に対して実数の部分集合を対応させる形で、数列から(実数の部分)集合列を構成すると上記の各概念もまた対応するということが確かめられます。このことから集合列の上極限・下極限は数列の上極限・下極限の拡張と言えるのではないでしょうか。
*1:infが存在しない数列の場合